ある居酒屋での話。
メニュー表にはたくさんの種類。その日、何となく刺身が食べたいなーと思い、ち
ょっとぜいたくに盛り合わせを頼んだ。
ビールを飲みながら、くだらない話で盛り上がっている中、
「お待ちどうさま」と元気なお姉さんの笑顔と一緒に届いた。
「ありがとう」と声をかけながらも、お皿にきれいにもられたおいしそうな刺身の
中にアジの姿が目に入った。
小さな頭に身をそり落とされた身体、そして尾びれの姿。そして、エラの下から尾
びれの所に一本のくしがとおっていた。そんな姿を見ているとエラが大きく動い
た。
今まで活きづくりを食べた事はあったけど、こんな活きのあるアジの姿を見るのは
初めてだった。
ほんと、エラが大きく動くのだ。まるで、水に戻せば元気に泳ぎだしそうな勢いな
のだ。
目もまだまだ透明で生き生きしている。
そんな目が俺を見ているようで「助けてくれー」と訴えているようにも感じ取れ
た。
そんな痛々しいアジの前には、ひと口サイズの切身。
しばらくすると、エラの動きが弱くなってきた。「もうだめだー死んじゃうよ」と思
ってしまう。
このアジの事を思えば、全部きれいに食べてあげることが一番いいことだとは分か
っているんだけど、食べることもできず、ビールも進まなくなった。
「活きづくりって残酷だなー」って思っていると、隣のテーブルから「すみません
ー、このアジ、唐揚げにしてください」
隣も刺身を頼んでいたらしく、店員に注文した。
確かに、唐揚げ、うまいだろうなー、これこそ骨まで愛してだなと思いながらも、
俺はそんな気分にはなれなかった。
俺は、料理が何もできない。
料理って、誰かが調理して食卓に並ぶ。
そして、それを食べては簡単に、おいしい、おいしくないって言っては食べきれな
ければ残す。
昔、CMであった。「輸入して残す日本」そのとおりだ。ぜいたくな話だな。
人間は生きるために一生懸命育てた動物や魚の命をもらう。
もし、この過程を見てしまえば、たぶん食べられないだろう。
私たち命は、たくさんの命に生かされているんだと改めて思う。
だからこそ、生かされている命、大切にすることが使命なんだよね。
ごはんを食べれること、それも幸せなことです。
アジの活きづくり