生きる

最近つらい葬儀が多かった。
一言でいえば「生と死はとなりあわせ」
老若男女関係ないのが死なのだ。
みんな他人事のように思っている。自分が死ぬのはまだ先の話。
家族との別れがあるなんて、誰も思っていない。
夫のために
Sさんは、長年連れ添った奥様Mさんを突然亡くされた。自宅で倒れてから数日、
病院で手をにぎり付き添っていたが、にぎり返すことなく別れを告げた。
Sさんは「ありがとう」の言葉を送ることができなかった。
M さんは夫、そして親のために人生を尽くしてきた。
Sさんの趣味には愚痴一つ言わず、陰ながら支えてきた。
また、親が体調を崩してからは、自宅で介護の日々。
夫婦二人出かけることも我慢した。
そんな二人は、Sさんの退職後、新婚旅行で出かけた北海道に出かける計画を立て
た。二人で歩んできた道のり。
これからもずっとずっと二人で老後を、今までがんばってきた分、ゆっくり楽しむ
はずだった。
たくさんたくさん思い出を作るはずだった。
突然襲った奥さんとの別れ。
すべてが叶うことのない夢に変わった。
みんなのために
Gさん、あなたは口数は決して多くはなかったけれど、いつも人のために尽くして
くれた人だった。
優しく包み込んでくれたあなたの笑顔。
朝、子供達が学校に行く時は、一人一人に「おはよう。気をつけていってらっしゃ
い」と声をかけてくれた。
あなたがいつも立っていた場所が寂しく見える。
毎日毎日、朝を迎える。
子供達もいる。いないのは元気に微笑みながら声をかけてくれるGさんの姿。
最後の願い
突然襲った家族みんなの死。
毎日忙しい中、一人娘のためと旅行に出かけた。
家族三人で、楽しい思い出を作るために、この屋久島を訪れた。
…一瞬にして変わってしまった信じられない結末。誰がこんな事を思うだろうか…
式場に安置された三つの棺。
今、当社がしてあげられるのは、おとうさん、おかあさんの間に娘さんを入れ、川
の字に安置してあげることぐらいだ。
棺の中で子供なんてまるで眠っているようにしか見えない。
何とも言えない光景。
次の日、高齢の祖父母が迎えに来られた。
今、起きている事が当然受け入れられる訳でもなく、張りつめた時間だけが過ぎて
いった。
そして火葬の日。
おとうさんを先頭に、おかあさん、そして娘と霊柩車がつながって走った。
私は、娘さんの車を運転し、助手席には祖父が乗られた。
しばらく車を走らせていると、祖父が重い口を開いた。
「この世には、神も仏もいないよ」
「なんで順番にいかせてくれないんだ」
「なんで、なんでなんだ…」
「孫の○○は、いつも笑顔で優しい子だった。この子の話をすると一晩でも語り尽
くせないよ」
と、助手席で肩を揺らしながら泣き崩れた。
以前、永田の真宗の先生の法話を思い出した。
「親死ね、子死ね、孫死ね」
初めて聞く人は、なんて事言うんだと思うだろう。だけどこの言葉、すごく意味が
あり重い言葉。
世の中、いつかは死を迎える。迎えるなら、順番にいけることが幸せなんだよね。
親との別れは「ありがとう」と感謝の言葉が出るが、逆に子供や孫が先だと、嘆き
しか出てこない。
遺された親からすれば「代われるならば代わってあげたい」と思うだろう。
この祖父母、三年前にも交通事故で子供を亡くしたそうだ。
今回、息子だけでない。いつも気遣ってくれた嫁。いつも笑顔で甘えてきた孫。す
べてを失ったのだ。
私はそんな祖父にかけられる言葉も見つからず、「そうですね」とため息しか出なか
った。
遺された祖父にとってすべてが「無」になってしまった。
祖父は「あと何年生きられるか分からない。その後、誰が面倒を見てくれるのだろ
うか」とこれから残された人生に絶望を感じていた。
そして、本当の別れの時。
孫が寂しがらないよう、父、娘、そして母さんの順番で火葬を行なった。
長く、辛い一日をその祖父母は終えた。
次の日、祖父母は辛い思い出をこの屋久島に残し、小さくなった家族三人のお骨を
胸に帰っていかれた。
子供のために
ゼロからのスタート。
23 歳という若さで会社を立ち上げ、奥様と力をあわせがんばってきた。
朝早くから夜遅くまで、家族のため、従業員のためにと、真っ黒になりながらも働
きづめの毎日。
そんな父の姿を見て育った子供達にとって、憧れであり目標でもあった。
親から子へ。
会社を引き継ぐだけでなく、その父の心を引き継いでいくのだ。
これからも自分の心に父を感じつつ、一歩一歩、家族のため、従業員のため、そし
てこの屋久島のために、がんばっていくのだろう。
いつかまた今は亡き父に出会えた時、「よくがんばったな」と言ってもらえるその日
まで、歩き続けるだろう。
愛する人のために
朝方、一本の電話からだった。
名前を聞いた瞬間「えっ」「なに」「○○」「もしかして 40 歳過ぎの男性ですか」と
看護士に声をかけた。
「ハイ、そうです」と言われてから、眠りかぶっていた頭の中が真っ白に変わっ
た。
信じられない中、病院へ。
嘘であってほしい、人ちがいであってほしいといろいろ思いながら、病棟へ。
薄暗い廊下にたたずむ奥さんの姿。ベッドに横たわる同級生。思えば辛い同級生の
別れは二人目となった。
「死」ということもものすごく身近に感じた瞬間だった。
その日は朝から同級生に電話。
「○○が死んだよ」としか言葉が出なかった。
○○のそばには呆然としている奥さんと目を赤くしお母さんに寄り添う二人の子
供。
なんて辛いんだろう。
かける言葉が見つからない。
そんな中、仕事と気持ちを切り替え、打ち合わせ。
通夜、葬儀には、突然の別れにも関わらず、たくさんの友人、同級生が集まった。
涙の中での葬儀。
映し出される家族との思い出。
いつもの笑顔で微笑んでいる○○。
家族のためにがんばってきた。
本人が一番この事実を受け止めることはできないだろう。
辛く苦しい現実を。
最後、火葬場に着き○○の顔を見た瞬間、今までこらえていた思いがたくさんの涙
とあふれてきた。
「特別」なんてないんだよね。
明日、いや次の瞬間どうなるかわからない。
家の中は何も変わらない。違うのは、あなたがいない事、一番大切なあなたがいな
い事。
家中に散らばる物を見るたびに、あなたの姿を思い出す。
静まり返った部屋、時間だけが過ぎていく。
止まらない涙。苦しくて苦しくておかしくなりそうだ。
魔法が使えるのなら、元の生活に戻してほしい。あの人を生き返らせてほしい。
今、あらためて思う、あなたの存在。
今を大切に。
あなたと過ごした思い出を胸に生きていくしかない。
いつかあなたに会えることを信じて。
人生、この世に生まれてきて同じ人生はない。
いろんな人と出会い、そしてたくさんの思い出を残す。
その人が生きた証を心に残す。
「生きる」
今ある幸せを忘れてはいけない

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