葬儀の仕事は「大切な人との別れ」
「命のはかなさや尊さ」
そう「命」について考える事が多い。
自分の人生を振り返る時、楽しい思い出は子どもの成長。
つらい出来事は、家族との別れ。
その中でも一番最初に思い出すのが、俺の責任で命をなくした飼い犬「ジョン」の
事。
名前は「ジョン」雑種の真っ黒で胸元だけ白い元気あふれる中型犬。
事件は小学生の頃、同じ集落の低学年と帰る際に起きた。
自宅前で飼っていたジョンが、喜びながら「ワンワンと鎖いっぱいひっばりながら
前足をのばす姿。
そんな光景に、いたずら心が芽生えた。
ジョンの前足が届くか届かない所に下級生の帽子を置き、取りに行かせた。
俺自身、軽い気持ちでやったんだけど、結果、犬にかまれ、病院に行く大変な事に
なってしまった。
低学年の家に謝罪の後、家では自分の目の前で父母の家族会議。
「犬は人をかむと味をしめて、また人をかむようになるからだめだ。もう保健所に
連れていくしかない。」
悩んだあげくの答えが出た。
俺自身、すべてが夢のような、他人事のような、何かわかっているようでわかって
いない状態だった。
その日の夜、いつも通り元気で見つめるジョン。そんな姿を寂しそうに見つめなが
らえさをあげる父。頭をなでながら「たくさん食べろ。」と語りかける父の後ろ姿が
あった。
次の日、学校から帰ってくると、家主のいなくなった犬小屋と鎖だけが残されてい
た。
父に聞くと、ジョンも何かを悟ったらしく車に乗るのをものすごく嫌がったそうだ
……
今思えば、保健所まで連れて行く父は、誰よりもつらく、苦しい想いだっただろう
…。
ぽかんとあいた家、ぽかんとあいた家族の心。
この原因が自分のせいだとわかっていても、一つの命が消えた事を本当に心の中か
らわかっていない子どもの自分がいた。
今、月日も流れ「命」を感じる毎日。
「俺のせいで一つの命が消えた事」
自分の些細ないたずら心で、その責任を罪のないジョンの命が犠牲になった事。
ほんと、今でも思い出すたびに、苦しくて苦しくてたまらなくなる。
「反省」との言葉だけではすまされない。
命の大きさ。
この事が今まで生きていた人生の中で一番悔やんでいることである。
《命(後編)に続く》
命(前編)